五代目、奮闘記『今週の訓練校』
手縫いの作業を学ぶ畳訓練校の模様をご紹介します!
前回に引き続き訓練校の産地研修、後編をお届けいたします~♪
二日目は朝から農家さんのお宅へ行き、実際に作業をされているところを見学に行きました。
東京組と京都・埼玉組で分かれての行動になりまして、我々は2名の農家さんの元へ向かうことになります。
まず伺ったのは、森野さんのお宅です!

この時期の農家さんの作業は去年刈り取られた『い草』を畳表に織り込む作業がメインになります。
天候を読み、自然と一緒に『い草』を育てた農家さんの仕事とはまた一味ちがい、
1枚の畳表という作品に仕上げ、加工の技術を要する職人としての一面ですね!
織物だと蚕や綿から育てる?お酒だとお米から?
要するに栽培、加工までを農家さんが担っている事になります。
すごいです。ほんとにすごい。
畳屋はあくまで仕立て屋ですから、農家さんには頭が上がりません。。。
仕組みは織物と同じようなものです、縦糸が芯になり、横糸が『い草』になるわけです。
織り込みは機械での作業になりますが、エラーや修正箇所がある時は停止して調整されるようです。
実際に動いているところはこちらです。
なかなか動きが速いですよね。
この織り込む機械を『織機』と呼びます。
農家さんは複数台の織機もっており、畳表の等級により使い分けていきます。
機械の左右から『い草』一本ずつ飛ばし上手くキャッチして櫛のような物でぎゅっと織り込んでいく。
畳表の芯になる縦糸にも等級があり、だいたい以下の用のなります。
綿1本→綿2本→麻1本→麻綿→麻麻
右に行くにつれて芯がしっかりとした畳表になります。
芯がしっかりすると1畳に対する『い草』の本数が変わってきます。
これを『打ち込み』と言い、等級の高い畳表ほど打ち込みが良くキメの細かい畳表に仕上がるというわけですね。
一枚の畳表に対して約4,000~7,000本の『い草』が打ち込まれているそうです。
縦糸がしっかりしていないとより多く打ち込むことが出来ないんですね。
もちろん『い草』の品種によって変わってきますし、農家さんの『い草』の育て方によっても変わってきます。これが面白いところではありますが長くなるので別の機会にしましょう。

動画でも分かる通りもの凄い精密なメカニックなんですね、メンテナンスも大変なんでしょう。
縦糸が通る小さいガイドがあるんですが、そこにわずかな引っ掛かりがあるだけで仕上がりに影響すると話されていました。
時には『い草』が切れてしまう事もあるそうです。
もちろん止めて修正されるので、手間がかかります。
この一糸乱れぬ整然とした動き・・・
いいですねぇ、なんかメカってわくわくしますよねぇ・・・
織機に入れられる前の『い草』こちら。
これに湿気を与えて柔らかくし、織り込んでいきます。

いくつか仕上がった畳表も見させて頂きました。
出来立てほやほやですね。
これには生徒も先生も夢中!!




いんやぁ~~、美しいですねぇ~~~。
ついつい、見とれてしまいます。
あまりにも綺麗なんで忘れてしまいますが、これって植物なんですよね。
100%自然の物ですからね。育てる段階から並々ならぬ苦労があるはずです。
僕が思うに、日本建築の素晴らしい点として木、土、和紙、い草、藁など自然由来の物を風土に適した最良の選択をし、さらに美しい化粧材として進化させている所があるな思います。
機能性と意匠性をお互いつぶさずに伸ばしていったような。
そんなのマテリアルとして最強ですよ。
しかも、建築物を構成する部材において畳だけじゃなく全てが同じような進化をしているのですから。
本当に先人の技術は凄いなと思います。
森野さんの納屋では床がコンクリートだったそうですが、泥を何回も流し土の層ができる状態にしたそうです。
これによりクッション性がうまれ長時間の作業でも体への負担が少なくなっていると言っていました。
これは先輩の農家さんから聞いて受け継いだそうです。
確かに反発もなくて楽でした。きっと断熱効果も期待できるんじゃないでしょうか。
このなにげない事ですが、泥を素材として使ってしまうという感覚が日本建築の原点の様にも感じてしまい、ハッとさせられてしまいました。


みんなで喋りこんでしまい長居してしまいました~!
森野さん、奥様ありがとうございました!!
では、次の農家さんに行きましょう!
伺ったのは早川さんのお宅です!
納屋にはいったらすでに織機が4台ほど稼働していました!
八代っぽく言うとびゃんびゃん織ってました!!
(そういえば、前回の大河ドラマ『いだてん』の主人公、金栗四三さんも熊本出身でしたね。
作中で『ぎゃーん』とか出るたびにちょっとほっこりしました。余談でした。)
そして、前日にJA市場にて見た麻麻の芯で織られた畳表も製作中でした、納屋の中央にある織機がそれですね。
芯材になる糸のロールも近くで見ると迫力があります。
近くで見ると麻糸が二本セットされているのがわかりますね。




う~ん、美しい・・・
先ほどお話しした等級による打ち込みの違いですが、打ち込みを多くするためにはぎゅっと抑え込む負荷も必要になりますね。
その力加減も織機により調整されています。
一台一台チューンナップされてるんですね、これは農家さんによっても変わってくるところだと思います。


みんな真剣ですね~。
上の写真の畳表ですが巾に違いがあるのが分かりますでしょうか?
これが京間用の畳表と関東間用の畳表の差ですね。
畳表に『い草』を織り込む際に左右から『い草』を一本ずつ入れていきます。
その際に根が交互に来るように織り込んでいます。
『い草』の特性として根っこ方が白っぽくなります。
これを根白と言いますがとちょうど畳縁がくるところですね、色変わりがあります。
良質な『い草』は長く育てられ、縁際の色変わりが少ないという事ですね。
ただ長く育てれば良いというわけではなく、実入りの良い丈夫な『い草』を育てる事が重要になります。

しかし、『い草』は株で育つため一株の中からすべてが長くなるわけではありません。
長いのから短いのまで育ち方に差があるというわけです。
そこで等級の高い畳表用のい草と下物用に選別が必要になってくるんですね。
今回は早川さんに選別の作業も見学させて頂きました!
下の写真の『い草』は夏ごろ刈り取られて物を束にした状態です。
刈り取ったものをいくつも束にしているのでこの状態で生えているわけでは無いですよ~。

まず根っこの部分をそろえてカットしていきいます。
次に下の写真の機械で選別をしています。
『い草』の先端だけをハサミのような部材がつまんで引き抜いていきます。

このように束になった『い草』を選別していきます。
この機械もよくできてますね~。
一番長い『い草』を一番抜き、その次が二番抜き、三番、四番・・・
と何段階にも分かれていきます。
農家さんによっても違いますが9段階に分けたり7段階にわけたりなどなど。

一番の右のが一番抜き。
等級の高い畳表は一番抜きの『い草』だけで織り込んだ畳表になるというわけです。
長い『い草』だけ作れればいいように一瞬思いますが。
実際には長い『い草』が取れる年は一本一本が割れたり折れやすかったりと品質の悪い『い草』に仕上がるとのことです。
育てる段階でその年の気候条件にも大きく左右され、天候を見極めながらの田んぼの管理や肥料の加減などを計算し、良質な『い草』を育てる事が良質な畳表を仕上げることに直結してるんですね。
まさに農家さんの一面と職人の一面を合わせ持った職業だと思います。
これにて農家さんへの見学会は終了です。
森野さん、早川さん、奥様の皆様、お仕事のお忙しいなか受け入れて頂きありがとうございました!!
この後はホテルに戻り、『い草』の品種改良をしている研究所、アグリシステム総合研究所い草研究室室長・西田伸介さんによる『い草の特性』を題材にした講演会と若手農家さん二名による年間の作業の紹介と新事業への取り組みをテーマに講演していただきました。
農家さんは村上さんと清田さん、お二方とも30代と若手です。
清田さんは研修会前日に東京で飲み会をしたときお会いしましたが、若手ながら熱意のある方でした。
今後の農家を担う方たちですね~。(ちなみにアクアリウムがお好きでスネークヘッドがお好きだそうです。)
みんな真剣に聞いてますね!!



・・・西田さんって、九州に多いんですよねぇ。
街を移動している時もニシダフードセンターやタクシー会社も西田交通など・・・
ちなみに阿蘇神社の神紋がうちの家紋と同じでして、うちは戦前の情報が空襲で焼失しているので、もしかしたらご先祖は熊本で農家だったかもしれませんね。
アグリシステム西田さんの講演は資料など公開はできませんが。
熊本県による『い草』栽培の歴史から、畳の歴史、品種による特性の違いや年間の農作業などなど、ありとあらゆる事をご説明頂きました。
これには若手農家さんも困惑。
俺たちの話すことがない!!
がんばれ~笑
でもしっかりとしたプレゼンでした。
清田さんは主に年間の通しての作業の紹介、どんな作業が大変かなどリアルなお話でした。
なかでも、初めから農家を継いだわけでは無く、一度就職をされたそうですが、震災を機に農家に転身したそうです。
僕も同じ境遇なので嬉しく思いました。
村上さんは農作業に加え、ご自身が取り組んでる新事業などをお話しされました。
畳表をつかったヨガマットや『い草』の香りをつかった香水など若手ならではの発想が盛りだくさんでした!
お二方とも急遽の依頼だったそうですが、お忙しい中資料作りなどもしていただき、ありがとうございました!
この後は研修に参加した訓練校生や先生、八代のJAの職員さんや農家さんを含めた50名は超える大懇親会でした!
いつも刈り取りでお世話になっている吉田さんも参加です!
やっぱり吉田さんの顔の見ると安心しますね。
いや~飲むのに夢中で全然写真とってなかったですね~。



懇親会にはほかの農家さんも参加していただき、京都・埼玉組がうかがった橋口さんも来ていただきました。
ちょっと、飲むのに夢中で写真無いですが・・・
多くの方とお話ができ良かったです。
なかなか一堂に会してお話できないですからね~。
貴重な経験をできた研修だったと思います。
農家さんともですが、他県の訓練校の皆さんとお話しする機会もなかなか無いですからね!
懇親会の締めの挨拶はなんと吉田さんが!!
さすが農業協同組合い業部の部長!

その後の二次会でも貴重なショットが!
吉田さん親子と森野さん早川さんがそろいました!
全員同い年で素晴らしい畳表を制作される強力なメンツです・・・
東京で畳屋をしているだけだと農家さん同士の距離がこんなに近い事もわからないですからね~。
現地に赴くと意外な発見があったりしますね!

翌日は急遽決まった工程がJA市場で実際にセリが行われる現場を見学できることに!
市場では入札が電子化されていて鮮魚などのように独特な合言葉が飛び交うような事は無いようです。
初日に行った時よりも大量の入荷があり、畳表が市場全体に持ち込まれていました。
指定の記入用紙があり、一枚ずつコンピューターで読み取り入札が行われます。

研修会の最後は各校二名の訓練生が研修での結果報告をする事に・・・
東京からは僕と二年生の鈴木君が、報告することに。
実際のところ、かなり悩み前日に鈴木君と夜中まで話し込みまして・・・
市場を出てドキドキしながらホテルに戻り報告会の会場に・・・
え、嘘でしょ、昨日の懇親会の大ホールじゃん・・・
広すぎますよ、これは大事になってきたぞと思っていたら。
農業振興課の岩下さん
「え~、ちょっとですね時間の都合上、発表は各校1名にさせていただきたいと思います。」
なん・・・だと!!
鈴木君!!うらぎったな!!!
振り向いたらニッコニコの鈴木君がいました・・・
この笑顔は一生忘れる事は無いでしょう。

ちょっとね、頭真っ白でなに喋ってるかわかんなくなってましたね。
苦手なんですね、こういうの。。。
以上で訓練校産地研修会は終了です。
最後にお伝えしたいことが。
現在、日本で流通している畳表の80%が中国産のものです。
バブル時代に中国での生産方法が確立され、生産コストが低く作られた畳表の価格に合わせ国産の畳表の相場が下がっていったそうです。
そこに生活様式の西洋化が拍車をかけ、畳自体の消費量が全国的に低下していきました。
畳屋さんもですが同じ理由で『い草』生産者も減少していきました。
農家さんに至っては農機具や織機など高額な機械がいくつも必要になっていきます。
続けていくには費用がとても掛かることも事実です。
そしてそれは同時に新規で参入する事の難しさを物語っています。
野菜や果物、花などとは違い加工までする『い草』農家さん、紹介してない器具もまだまだあります。
残念ながら農家を続けることができない方が続出したと聞いています。
最盛期は5400軒ほどの農家さんがいたそうですが現在は357軒。
去年は399軒でしたが1年で42軒も減少しています。
これは驚異的なペースです。
そして残った農家さんの80%の方が50歳を超えています。
後継者がいるのは80軒ほどです。
この先10年後にどうなるか容易に想像できますね。
国内での畳表の生産量は熊本県が90%を超えていますがこれが現実です。
実は畳文化自体がかなりギリギリの所まで来ています。
冗談でもなんでもなく、畳工事をご依頼される方、ご自宅に和室をお持ちの方がしっかりと国産の畳表を指定してただくことが畳文化を存続させることに直結しているんです。
このことは一人の畳好きとして言いたいのですが畳工事を考えている方は当店でなくても構いません、町の畳屋さんに国産をぜひ指定していただきたいと思います。
当店も、以前は中国産を主に使用いていましたが、以前にこの現状を聞きすぐに国産の畳表を使う事に変更しました。
もちろん中国産に比べて金額は上がりましたが、お客様には農家さんの事や『い草』の品質のこと、何よりどんな思いで『い草』が育てられているかを説明させていただいてます。
この苦しい現状でも『い草』を作りづづける農家さん、もちろん『い草』が大好きなんだと思います。
僕としてはこの思いも伝えていきたいです。
そんな事を報告会で喋りたかったんですが、言えてたかな・・・
この度は企画、ご案内していただいたJA八代の皆様、八代市農業振興会の皆様、訓練校指導員の皆様、そして農家の皆様、貴重な機会を作って頂き誠に有難う御座いました。
とっても濃厚な研修でした。
畳店だけでなく、より多くの方に、畳の事が好きな方にも是非経験してほしいなと思いました。
ご興味ある方は行ってみては如何でしょうか?
『い草』の聖地、熊本県は八代へ~!!
これからも頑張って行くぞ~!!

『西田畳店』創業140年。
『リフォーム二シダ』内装全般なんでも。
西田光二
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